2009年9月12日土曜日

「桜姫 清玄阿闍梨改始於南米版」

昨夜のNHK教育テレビ、芸術劇場で放映された舞台「桜姫 清玄阿闍梨改始於南米版」
を観ていて感じたこと。(さくらひめ せいげんあじゃり あらためなおし なんべいばんと読みます)

○鶴屋南北の歌舞伎狂言「桜姫東文章」を原作としていますが、舞台を南米にしたことで、南北の得意とする因果性やおどろおどろしさが前面に押し出される印象が薄れ、感情移入が比較的しやすかったです。四谷怪談などでは、少し引いてしまうことがありますから。

○これだけの豪華スタッフをまとめる串田和美さんの演出力はたいしたものです。
また、舞台の作りもセンター・ステージで、四方を客席に囲まれながらの芝居は役者に緊張感を生むようです。舞台上は大きな仕掛けもなく、何かテント小屋、見世物小屋で観ているような感じもしました。(舞台美術は松井るみさんです)
主な出演者は、大竹しのぶ,白井晃,笹野高史,古田新太,秋山菜津子,中村勘三郎(敬称略)となっています。

○脚本が長塚圭史さんということで、もっとグロいかと思っていましたが、それほどではないこと。原作の歌舞伎狂言を観ていないので何とも言えませんが、かなり荒唐無稽で矛盾があり、展開も早いので、お客さんはすごく判りづらかっただろうなと思いました。(僕もそうでした)

それにしても話の内容や設定は、今の時代でもこんなに自由奔放でぐじゃぐじゃしていていいのかと思える程です。四世 鶴屋南北という人の才能とそれを歌舞伎狂言として演じていた当時の役者に感心してしまいます。でも、もっとすごいのは、この歌舞伎狂言がずっと観客に受け入れられ、今に残っていることですね。

物語は寓話に満ちたガルシア・マルケスが描く世界のようでもあり、奇妙な夢の断片が次々と現れては繋がり合い、ごった煮になったような感覚に捉われます。不条理でもリアリズムでもなく、かといってエンタテイメントかというと、いや、違うような。とても不思議な芝居です。

豪華出演陣の中、チンピラのような役をしていた井之上隆志さんが、とても気になりました。普段では観られないような役柄でしたが、逆に自然に演じていたように思えます。

井上さん演じるルカのセリフで、「世の中には自分が2人いて、自分に不幸があった時は、もう一人の自分が幸福になっている、そうやって、折り合いをつけて、納得させて生きていく・・・」みたいなものがありましたが、エンディングにそれが理解出来たような気がしました。

人って、心の葛藤もあり、かなり矛盾の中で生きているわけです。
惑い、悩み、苦しみ、答えは一生見つからないかもしれません。

だから、古田さん演じる悪党のココージオに、「今だけしか信じない」と言わせているのですね。

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