2010年7月29日木曜日

2人の夫とわたしの事情

昨夜ようやく、先週金曜日にNHK「劇場への招待」で放映された舞台「2人の夫とわたしの事情」を見ることが出来ました。シス・カンパニー公演らしい豪華で個性的な出演陣と演出・上演台本がケラリーノ・サンドロビッチさんということで、公演情報を得た時には是非観たいなと思っていた舞台でした。なんといっても、主演の松たか子さんはとても好きな女優さんで、これまでも出演する舞台は毎年2本ぐらい観に行っていましたからね。


原作は、イギリスの作家であるウィリアム・サマセット・モームのものです。この人の本は「月と六ペンス」ぐらいしか知らないのですが、戯曲家としても数本書いていることを今回初めて知りました。この原作にケラさんが手を加え、演出し、松たか子さん、段田安則さん、渡辺徹さんらがそれに応えるようにそれぞれの持ち味をいかんなく発揮していました。

物語はひょんなことから夫が二人になってしまった松さん演じるヴィクトリアと、その二人の夫、ビル(段田安則さん)とフレディ(渡辺徹さん)との事の顛末をシニカルに描いたもので、至極まっとうな喜劇として成立していますので、どなたも肩の力を抜いて気軽に観られるものです。

何と言っても、松さんの演じるヴィクトリアという女性は、自分勝手で理不尽な振る舞い、言動をするわけですが、そこにはどこか憎めないところがあって、逆にかわいらしい女性にも思えてしまいます。その辺は、松さんの違った一面が見られ、充分に喜劇を演じられる程の実力を感じました。対する段田さん、渡辺さんは台詞の間や動きなんかも、松さんの芝居にぴったりと合い、決して負けていないのには見事の一言でした。

人は自分の弱さやずるさといったものを隠しながら、どこかで本音とは違った生き方をしているものです。それは、世の中で生きる術でもあるわけです。この芝居での一番の魅力はそんな部分をあからさまにすることで、悲劇も喜劇であり、また逆に喜劇も悲劇でありうると言う表裏一体な部分を、舞台といる特殊な空間で緊張と弛緩の中に描いたものだと思います。

サマセット・モームが書いた「月と六ペンス」は、モデルが画家のゴーギャンですが、題名である月は夢を、六ペンスは現実を象徴してものだと言われています。作家として根底にあるものは、どの作品にも色濃く影響を与えているような感じもしました。

それにしても、この舞台で見せてくれた松さんの新たな一面は、今後の可能性を感じずにはいられません。森光子さんのようになっちゃうかもと密かに期待してしまいます。

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