2009年8月29日土曜日

忘れえぬ写真 永遠そして記憶


2007年春、僕は静岡県三島にあるヴァンジ彫刻庭園美術館に行きました。それは、僕の好きな写真家のひとりである古屋誠一さんの「Aus den Fugen」という企画展を観るためでした。

ヴァンジ彫刻庭園美術館はクレマチスの丘と称された自然公園もある文化施設のひとつで、東京から三島まで新幹線で約1時間、そこからバスで20~30分程で行けます。少し、高台に位置するその美術館は、とても見晴らしも良く、一瞬日本ではないような感じがします。普段は、現代イタリアを代表する彫刻家、ジュリア-ノ・ヴァンジの作品が野外と館内に展示されている個人美術館ですが、今回西伊豆生まれでもある古屋さんの作品が館内の一部に展示されていました。

展示室の入り口すぐの場所に展示されていた作品が、上の写真集からの画像です。小さいのでよく判らないかもしれませんが、全体的に明るい淡いブルーの色調が美しく、水平線が空に溶け込む波間に白い一艘の小舟が写っています。これは、故郷である西伊豆の海を撮ったもので、下のパンフレットの女性のバックに写っている海とのことでした。

その時、僕はこの作品から”永遠”という言葉が思い浮かびました。

実は、パンフレットに写っている女性は、古屋さんの妻であり、1985年に亡くなられたクリスティーネさんです。古屋さんはクリスティーネさんが亡くなられてから、生前撮りためていたポートレイトを自ら整理し、私的な記憶の残影を作品として発表していました。写真集としては、”Memoires 1983”があります。

そんな作品の数々を写真集として見た時から、いつかはオリジナルを見なければいけないと一種使命感のような感覚を覚えていました。しかしながら、会場に入った途端、はからずも、クリスティーネさんのポートレイト写真よりも、この海の風景を撮った作品に強く惹かれたのでした。

写真展のタイトルである「Aus den Fugen」は脱臼した時間と訳され、写真集としても発刊されています。古屋さんは妻の死後、撮りためたポートレイトに自ら向き合うことで、あくまで私的な永遠の記憶を写真と言う媒介を通してわれわれに見せているように思えます。

そんな思いが、永遠と感じた所以なのかもしれません。


その後、2008年8月に東京オペラシティ アートギャラリーで行われた”トレース・エレメンツ”展で再び見た時の印象は、やはりその時と変わらないものでした。

トレース・エレメンツ”展の紹介映像が偶然YouTubeにあることを知りましたので、載せておきます。

http://www.youtube.com/watch?v=5FO2RuxXGtU







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