2009年6月19日金曜日

”見えるものと見えないもののあいだ”


昨日の谷崎潤一郎繋がりで、僕の好きな作家を紹介します。

女性作家の米田知子さんです。

1965年兵庫県明石生まれの米田さんは、イギリス、ロンドンを拠点に活躍されています。最近では、2008年の9月に東京北品川にある原美術館で大規模な個展”終わりは始まり”を開催しました。

米田さんの制作テーマは、”記憶”と”時間”だと言われています。言い換えると、”見えないものを見る”視線とそこに派生していた出来事と時間との関わりだと思います。米田さんは実際に撮影を行う前に、場所や歴史を入念にリサーチします。そうして、出来るだけ客観的な情報を得た上で、自身の感情や意識を介在させずに、写真と言う手段を用いて一瞬を剥ぎ取るようなやり方で制作しているように、僕には思えます。

上のイメージは、”見えるものと見えないもののあいだ” と言う代表作の中の一つです。これは、歴史上の人物が実際に使っていた眼鏡のレンズを通して、彼らに関係のあるテキストまたは写真などを見るという手法で制作されています。

谷崎潤一郎が夫人の松子へ宛てたラブレターを、彼自身の眼鏡を通して見た瞬間を捉えています。二人の間にある歴史や時間は、周囲には決してうかがえない”見えないもの”ですが。四角いレンズを通して書簡を見ると、何かその”見えないもの”が浮かび上がってくるように思えます。また、谷崎潤一郎の筆跡はとても流麗で、趣があり、ぼんやり映し出された眼鏡のツルの部分が一層見る者に時間の流れを感じさせます。カメラはハッセルブラッドで、自然光と資料室の明かりだけで撮影されているそうです。

”終わりは始まり”を開催した原美術館は現代アート系の作品を展示、所蔵している美術館ですので、その意味でも米田さんの作品が単純な写真作品として捉えられていないことがよく解ります。もちろん、プリント自体も素晴らしいです。

ちなみに、原美術館はとても好きな私立美術館のひとつで、一階のカフェでは中庭を見ながら食事も出来ます。群馬県渋川市の伊香保グリーン牧場内に、別館のハラ・ミュージアム・アークもあります。全体が黒塗りの板張りで作られた建物は、周りの緑とのコントラストが映え、とてもきれいでした。また、牧場でのアイスクリームが格別だったと記憶しています。もう一度行ってみたい場所です。

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