2009年11月26日木曜日

「QUINAULT」 ~クウィノルト~

濃密な空気感と眼も眩むほどの緑の色彩。


「QUINAULT」上田義彦著 2009年 青幻社

1993年、京都書院より初版刊行後、2003年、青幻社より再版、そして、2009年再々版された写真集です。僕が初めて書店で手にしたものは初版だったと記憶していますが、当時はまだ写真についてはそれほど興味が薄く、購入はしませんでした。しかしながら、圧倒的な描写力は、写真の域を突出しているような印象を受けました。


アメリカ・インディアンより「QUINAULT」と名づけられた森を正面から見据え、8×10により忠実に撮影したこれらのイメージは、太古の昔から現在へと繋がっている生の強さを感じます。

この写真集の特徴は、幻想的ともいえる森の情景に臆することなく対峙している姿が一貫して感じられること、美しすぎるほどのプリント品質(オリジナル・プリントは別物だと思いますが)、そして、裏写りを考慮して、1ページが折り返しされ、袋状になっていることです。

上田義彦さんの作品を最後に見たのは、2006年暮れから2007年春まで東京大学総合研究博物館で開かれた「CHAMBER of CURIOSITIES 東京大学コレクション-写真家上田義彦のマニエリスム博物誌」展だったと思います。冷たい小雨が降る中、博物館に入ると、そこは小川洋子さんの世界でした。入口から、夥しい量の学術標本が展示されている部屋を通り過ぎ、やや奥の一室に作品が展示されていました。

いわゆる記録写真(学術写真)には主観性は必要ないのですが、ここにある一枚、一枚にはそれぞれの個性といったものあり、柔らかさや奥行きのようなもの(作家性に通ずるもの)を感じました。確か、インクジェットによるプリントだったと思いますが、充分に表現されていると感心したものです。写真集も刊行されていますので、眼にした人は多いかと思います。

上田義彦さんは、2006年に「at HOME」という、家族を写した写真集も出しています。この写真集はライカで撮影、モノクロですが、柔らかい光にあふれ、写真家上田義彦の違った一面が見られる秀作であると思います。

いずれも、機会があれば、手にとって見ていただきたい写真集です。




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