2009年6月25日木曜日

”イル・ポスティーノ”

“1Q84” 1,2巻本日同時購入しました。

いやぁ、厚いです、重いです!!

ネット上では様々なレビューやコメントが飛び交っていますが、気にせず1000ページの大作をゆっくりと楽しみたいと思います。

1984年で思い浮かぶのは、ジョージ・オーウェルの小説やその映画です。たしか、ヴァン・ヘイレンも同じタイトルのアルバムを出していたような気がします。

映画”1984”の監督は誰だったろうと調べてみると、マイケル・ラドフォードだったのですね。日本では2005年公開されたアル・パチーノ主演の”ヴェニスの商人”が最近の作品ですが、代表作は何と言っても”イル・ポスティーノ”だと思います。

なんか、出だしと違った方向に行っていますが、今日はこの映画の紹介をします。

”イル・ポスティーノ”は、1994年制作のイタリア映画です。題名は日本語では郵便配達人を意味します。簡単に書いてしまうと、1950年代イタリアのとある小島が舞台で、チリの反体制派の著名な詩人とその詩人に手紙を配達していたどこにでもいるような普通の青年との心の交流を描いたものです。

この映画の良い所は、”すべてにおいて美しい”の一言に尽きると思います。綴られる言葉、描かれる自然の描写、一音一音染み入るような音楽、すべてが調和しているのです。後半部に好き嫌いが分かれると思いますが、生きることの哀しみと素晴らしさを自然に感じられる映画です。

主人公の若者を演じたマッシモ・トロイージ(イタリアの喜劇俳優ですが、この映画ではとてもそうは見えません。)は、心臓に持病を抱えながら撮影に挑み、ロケ中に倒れてしまいます。そして、”今度は僕の最高のものをあげるからね”とスタッフに言い残し、撮影後間もなく亡くなったことはとても有名な話です。またもうひとりの主役であるフィリップ・ノワレの存在感ある演技も素晴らしいです。(”ニュー・シネマ・パラダイス”に出演、2006年に亡くなっています。)

詩というものを通し浮かび上がる言葉の力強さ。

それら珠玉のような一言、一言により表現される日常の情景や心の機微。

眼に見えるものだけが真実ではないことを再認識出来ます。


晴れた日の午後、ゆったりとした気持ちで見てほしい映画です。

2009年6月24日水曜日

polka近況報告




今日は朝から頭痛がします。頭痛持ちではないのですが、忘れた頃に顔を出します。
梅雨時で気温が変動しがちですので、色々と注意して行きたいと思っている次第です。
そんなわけで、あまり考えがまとまりそうにないので、今日はもう一人(一匹?)の住人であるpolkaの近況報告をします。

早朝に鳴きはしますが、相変わらず元気でいます。僕が部屋にいる時は大抵ソファーが定位置で、表を眺めたり、寝たりしています。
小さい頃は僕がソファーで寝たりしていると、体に乗ってきたりしていましたが、ここ数年は我関せずといった感じです。もう11歳ですから当たり前ですけど。

また、猫は夜行性と言われていますが、こいつは昼も夜もよく寝ます。環境が変化したこともあるのか、良く食べてもいますね。以前はいわゆる猫食いそのもので、気が向いたら食べ、キャットフードが乾燥してしまうと見向きもしなかったのですが、最近はそうでもなく、餌をたびたび交換することもありません。お腹のたるみも一層大きくなっているようです。

時々、以前の写真を見ますが、あまり変わっていないように思います。毎日一緒にいるとその変化に気付かない場合がありますが、純粋に変化が少ない印象です。老いていくのは自分ばかり、そんな気さえします。

でも、僕自身は年を取ることはそれ程悪いものではないと思っています。いまさら若かったあの頃に戻りたいとも思いません。結局、その瞬間を生きていくことが、生きているもの全てに共通しているものですからね。

2009年6月23日火曜日

展示の見直し

昨夜の雨とうって変わり、今日は朝から初夏を思わせるような天気です。風が強いのと湿度が高いのが少し厄介ですが、まあ雨よりは良いですね。

ギャラリーの中は半地下の影響もあり湿度が高めになるので、昨日は休みだったのですが午後からドライで乾燥していました。今回の展示は、デジタル作品を直に壁に留めているので、湿度が問題です。

主にコットンベースの用紙を使用していますので、湿度によりたわみが発生してくるからです。と言う訳で、今日の午前中は全点展示の状況を見直しました。久々に脚立を取り出して来て、たわみを起こしているものを全て取り付け直しです。1時間30分程掛かりましたが、精神衛生的にはすこぶる良好になりました。

やはり当たり前ですが、よい状態で作品を観ていただきたいですからね。全体をもう一度眺めながら、どことは言いませんが、以前とても著名な美術館で1m×1m程度の額装された写真作品が波打っていたのを見て、とても悲しい気持ちになったことを思い出しました。そんな思いはしたくないので、これまでもそうでしたが、毎日の確認は今後欠かせない日課の一つになります。

さて、ギャラリーがオープンしてから、約1ヵ月が過ぎましたが、来てくださったほとんどのお客様は展示されている作品や内容に満足されている様子です。今日はお客様のアンケートでの感想を一部ご紹介します。


○時代に沿いつつ同時代を輪切りにしている。その切り口にフレッシュな感覚を覚えました。

○今回の写真展、すごく良いです。うめつくす感じが圧倒的で、サイズのまちまちなところ、見にくい所にも写真があるところも含めて、すごく好きな展示でした。

○写真は記憶についてのメディアだと改めて感じた。

○オリジナル・プリントがこうして見られる場所があるのは、とても嬉しいです。有名・無名問わず、どんどん見たいです。

○モノクロに逢えて良かった。


まだまだ、仙台でも無名の小さなギャラリーですが、オリジナルで、そして質の良いものを出来る限りお見せしていく予定です。
是非、お気軽にお立ち寄り下さい。

2009年6月22日月曜日

紫陽花


雨上がりの曇り空の下、朝から北山5山の一つである資福寺へ行ってきました。北山5山とは文字通り仙台北部にある北山一帯に点在する5つのお寺の総称です。ギャラリーからは、自転車で10分程度と比較的近くにあります。

資福寺は仙台では紫陽花で有名なお寺です。境内には約1200株の紫陽花があり、あじさい寺と呼ばれています。あじさい寺と言えば北鎌倉の明月院を思い起こしますが、全国各地にそのように呼ばれているお寺がたくさんあるようです。

物の本によると、紫陽花は梅雨の頃に咲き、気温の変化が激しい時期であったため医療の発達していない時代には、多くの病人や病気による死者が出たそうです。そのために、寺によっては死人に手向ける花とも呼ばれ、過去に流行病等があった地区の寺に多く植えられていたそうです。

山門に入る前の参道両側のほとんどが紫陽花です。まだ少し早かったようで、すべてが咲いているわけではありませんでした。山門を抜け、正面にある本堂までの空間は小路にしつらえ、路に沿って色とりどりの紫陽花が植えつけられています。ほぼ等間隔で並べられたベンチもあり、ゆっくりと見られるようになっていることに、押し付けではない優しさを感じます。

又、山門と本堂の途中の仕切られた空間に、枯山水の庭があります。残念ながら、中に入ることはできなかったのですが、入口の格子戸を覗き込むと、白砂は雨に濡れやや灰色がかっていましたが、確かに枯山水でした。枯山水の庭は回遊式庭園と違い、散策等せずに室内から静かに対峙し眺めるものです。そして、白砂に置かれた大小さまざまな石は、その組み合わせや置き方により一つの観念的な世界を作り上げます。

そして、本堂の前面を覆うように竹林がありました。天にすくっと聳え立つように伸びている竹林は何故か潔く、心が洗われる感じがします。
こういう場所に来ると時間が止まりますね。見頃前だったので、ほとんど人がいなかったことも一層そんな感じにさせてくれます。

上の紫陽花は本堂裏にある民家に咲いていたものです。そのご主人と話をしたところ、非常に珍しい種類のようです。僕は花には詳しくないので良く分からないのですが、そう言われると何となくガクの形が違うように見え、妙に納得してしまいます。

その方も写真が趣味らしく、動物の写真を撮っているとおっしゃっていました。こんなギャラリーをしていますと案内状を渡すと、へえと言って、詳しい場所を聞いてこられ、今度観に行きますと言って下さいました。思いがけないことでとてもうれしくなってしまいました。

帰りに子供の頃よく遊んだ青葉神社に寄ってみました。周りのお店や町並みはすっかり変わっていましたが、深い樹木で暗くなった石段の参道を登っている内に40年前頃の記憶が不思議と蘇ってきました。この近くの友達の家に遊びに行き、その子と下の公園で野球をしたこと、神社のお祭りで買ったベッコウアメの甘さ、参道に沿って繋がった出店の赤い提灯に何故か心躍ったこと。それは、当時は本当に些細な事だったのですが、今も記憶の引き出しに残っていたのですね。


2009年6月21日日曜日

日向敏文

以前、ギャラリー開廊時にCSN&Yの"Deja Vu"(デジャ・ヴ)を流していることを書きましたが、上のイメージは誰もいないギャラリーで一人準備をしている時などに聞いているアルバムです。2007年にソニーからオーガニック・スタイルという企画盤の一つとして発売された日向敏文 the BEST ~In the Twilight~と新譜の"ISIS2"です。

日向敏文さんは、1980年代に東京ラブストーリーを始めとするテレビドラマや多くのCMへの楽曲提供、プロデュース業と幅広く活躍されていました。その後表舞台からはすっかり姿を消してしまっていましたが、2006年に自身のレーベルを立ち上げ、公式サイトも出来ました。それでも当時のレーベルだったアルファーレコードはもう無いので、初期のアルバムは残念ながら廃盤になっています。
ネットでも情報を取れてなかったのですが、ようやく公式サイトを見つけ、このアルバムが発売されたことと同時にピアノ・ソロアルバム"ISIS2"も自身のレーベルから発売されることを知り、同時購入したものです。

日向さんのアルバムは、デビューアルバムの"サラの犯罪"、2ndアルバム" 夏の猫"と言う初期のものが好きでした。そして、ピアノ・ソロアルバムの”ISIS”を聞いたときは、鳥肌ものだったことを今でも鮮明に覚えています。

また、このアルバムは、いわゆるニューエイジものとして捉えられそうですが、実は全然違います。楽曲は全てインストメンタルですが、まるで物語を語るように聞く人に迫ってくる感じがします。そして日本人離れしたどことなく退廃的で斬新な音作りが、いつのまにか違う世界へと入っていってしまうような錯覚を覚えさせるのです。

収録された多くの曲は20年以上前に作られた曲ですが、今でも古臭さを感じさせません。

Amazonでも試聴出来るはずですので、興味のある方は聴いてみてください。


日向敏文公式サイト
http://www.toshifumi-hinata.com/

2009年6月20日土曜日

2008年観劇記録

今日は今更と言われそうですが、2008年に観に行った芝居の中で、印象に残った作品を挙げたいと思います。

○”春琴” サイモン・マクバーニー 世田谷パブリックシアター
○”顔よ” ポツドール 本多劇場
○”どん底” ケラリーノ・サンドロビッチ シアターコクーン
○”焼肉ドラゴン” 鄭義信 新国立劇場小劇場
○”父と暮らせば” こまつ座 紀伊国屋サザンシアター
○”まほろば” 蓬莱竜太 新国立劇場小劇場
○”sister” 長塚圭史 パルコ劇場
○”人形の家” デヴィッド・ルヴォー シアターコクーン
○”シャープさんフラットさん” NYLON100℃ 本多劇場
○”The Diver(ザ・ダイバー)” 野田秀樹 シアタートラム
○”幸せ最高ありがとうマジで!” 本谷有希子 パルコ劇場
○”太鼓たたいて笛ふいて” こまつ座 紀伊国屋サザンシアター

演目の後ろは劇団名もしくは作・演出家で、順番は優越ではなく、観に行った順番です。
そしてあくまでも私見です。書いているうちに、やっぱり偏っているな(作家や出演している役者や会場等を考えると)と自分でも感じました。

ひとつひとつの感想や印象についてはおいおい書こうと思いますが、今回は2作品について紹介します。
本谷有希子作・演出の”幸せ最高ありがとうマジで!”と蓬莱竜太作・演出の”まほろば”です。実はこの2人は、この作品で2009年岸田國士戯曲賞に選ばれています。岸田國士戯曲賞と言うと、写真では木村伊兵衛賞に当たるのではないでしょうか。いつも演劇界の芥川賞と称されます。(○○界の芥川賞と言う表現がとても多いですが)2人共ここ数年何度かノミネートまではされていましたが、今回めでたく同時受賞となったわけです。

本谷さんの方は、文筆・ラジオ等メディアでも取り上げられているので、ご存知の方もいらっしゃると思います。映画にもなった”腑抜けども、悲しみの愛を見せろ”が演劇でのデビュー作で、女の病気シリーズと銘打って5作程上演をしていました。自身の容姿からは想像出来ないようなどろどろとした女の情念や妄想、倒錯した姿を描いていました。本作も強烈な個性の女性が主役で、最後はちょっと悲しい気分になりました。

一方、蓬莱さんは劇団モダンスイマーズの座付き作・演出家で、劇団全公演を行いながら、舞台版”世界の中心で、愛をさけぶ”や”東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~”と言った話題作の脚本・演出もしています。モダンスイマーズでは骨太の作品が多かったのですが、外部演出によりその幅が拡がっているように見えました。今回の受賞作は、出演者が女性だけの3世代の物語で、よくもこんな台詞や感情表現を演出出来るものだと感心させられました。

岸田國士戯曲賞に対する世間の評価もさまざまですが、それぞれにオリジナリティーがあり、まだまだ若い(本谷さんは来月30歳、蓬莱さんは33歳)作家なので、その可能性がますます伸びることを期待しています。

次回公演予定です。
劇団本谷有希子 ”来来来来来” 本多劇場 7月31日~8月16日 
その後地方公演がありますが、残念ながら仙台では無いようです。
モダンスイマーズ10周年記念”血縁~飛んで火に入る五兄弟~” 赤坂レッドシアター 
7月17日~8月2日

興味のある方は一度観に行って下さい。
芝居は生ものですから。

2009年6月19日金曜日

”見えるものと見えないもののあいだ”


昨日の谷崎潤一郎繋がりで、僕の好きな作家を紹介します。

女性作家の米田知子さんです。

1965年兵庫県明石生まれの米田さんは、イギリス、ロンドンを拠点に活躍されています。最近では、2008年の9月に東京北品川にある原美術館で大規模な個展”終わりは始まり”を開催しました。

米田さんの制作テーマは、”記憶”と”時間”だと言われています。言い換えると、”見えないものを見る”視線とそこに派生していた出来事と時間との関わりだと思います。米田さんは実際に撮影を行う前に、場所や歴史を入念にリサーチします。そうして、出来るだけ客観的な情報を得た上で、自身の感情や意識を介在させずに、写真と言う手段を用いて一瞬を剥ぎ取るようなやり方で制作しているように、僕には思えます。

上のイメージは、”見えるものと見えないもののあいだ” と言う代表作の中の一つです。これは、歴史上の人物が実際に使っていた眼鏡のレンズを通して、彼らに関係のあるテキストまたは写真などを見るという手法で制作されています。

谷崎潤一郎が夫人の松子へ宛てたラブレターを、彼自身の眼鏡を通して見た瞬間を捉えています。二人の間にある歴史や時間は、周囲には決してうかがえない”見えないもの”ですが。四角いレンズを通して書簡を見ると、何かその”見えないもの”が浮かび上がってくるように思えます。また、谷崎潤一郎の筆跡はとても流麗で、趣があり、ぼんやり映し出された眼鏡のツルの部分が一層見る者に時間の流れを感じさせます。カメラはハッセルブラッドで、自然光と資料室の明かりだけで撮影されているそうです。

”終わりは始まり”を開催した原美術館は現代アート系の作品を展示、所蔵している美術館ですので、その意味でも米田さんの作品が単純な写真作品として捉えられていないことがよく解ります。もちろん、プリント自体も素晴らしいです。

ちなみに、原美術館はとても好きな私立美術館のひとつで、一階のカフェでは中庭を見ながら食事も出来ます。群馬県渋川市の伊香保グリーン牧場内に、別館のハラ・ミュージアム・アークもあります。全体が黒塗りの板張りで作られた建物は、周りの緑とのコントラストが映え、とてもきれいでした。また、牧場でのアイスクリームが格別だったと記憶しています。もう一度行ってみたい場所です。