2009年6月10日水曜日

リトル・ダンサー

6月7日 アメリカの演劇界では最高峰であるトニー賞が発表されました。ミュージカル部門では15部門中10部門で"ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル"が受賞したようです。"ビリー・エリオット"と言うとお気づきの方もいらっしゃると思いますが、2000年に公開された映画"リトルダンサー"の原題で、つまりそれをミュージカル化させたもので、監督であるスティーブン・ダルドリーが演出を行っています。

スティーブン・ダルドリーと言う監督は、"リトルダンサー"、"めぐりあう時間たち"、日本では今月公開予定の"愛を読むひと"の3作品だけしか撮っていないと思いますが、いずれもアカデミー賞にノミネートされています。アカデミー賞にノミネートされた作品だけがすなわち良い作品とは言えませんが、それでも必ず認められた作品を作ることは非常に困難ですし、素晴しい才能だと思います。もともとは舞台で活躍されていた方なので、本作品の受賞は特に変わったことではないのかも知れません。

さて、映画"リトルダンサー"は、ビリー・エリオット役であるジェイミー・ベルの真っ直ぐな少年の初々しさと愛情溢れる父親の姿がとても印象的だったと記憶しています。父親役の役者の名前が判りませんが、炭鉱不況の中、ストライキする側から子供の学資の為に寝返り、職場へのバスに乗り込む場面やバレー学校の面接に付き添う場面は、思わずグッと来てしまいます。使われている音楽も、T・レックスやザ・ジャムだったように思います。

又、この映画の良いところは、背後にある時代性(政治的背景)をきちんと描きながら、そこで苦しみながらも希望を失わない弱者の立場を、決して暗いタッチではなく、暖かく見つめていることだと思います。これは、"めぐりあう時間たち"でも変わっていないなと感じましたが、おそらく監督自身の想いなのでしょう。そして、夢は見るものではなく、つかむものと実感させられ、元気になる映画でもあります。
オリジナルのミュージカルは観るのが難しいと思いますので、映画の方は機会があれば、是非観て欲しいですね。


そう言えば、先週紹介した"焼肉ドラゴン"が、6月12日(金)NHK教育芸術劇場(22:30~)で放映される予定です。地上波では初めてだと思います。(BSでの放映は昨年ありました)最初の説明はこれまでと同じかも知れませんが、そんな説明がなくても、心に響く舞台です。
こちらも必見です。

2009年6月9日火曜日

オリジナルの強さ

仙台に来てから、4ヶ月が経過しました。来た当初は、一年で一番寒い時期で、28年間東京で過ごしてきた僕にとって、ここが生まれた場所とは言え、寒さの違いが肌で感じられました。昨日、自転車でふらり市内を走っていると、いつのまにか公園の木立にも緑が目立つようになっています。柔らかい風が初夏の雰囲気を感じさせ、もうじき来るであろう梅雨の存在さえ忘れさせてくれるようでした。

たまたま、時間があったので、こちらに来てからとても気になっていたインテリア・ショップに行ってきました。そこは、テナント探しの時に偶然発見したお店で、スポット照明の中、イームズを始めミッドセンチュリーの家具が素敵なまでにレイアウトされていました。しかも、それらのほとんどはオリジナルに見えたので、仙台にこのようなお店があることを嬉しく思ったのでした。

12:00開店のお店を覗き込むと、まだお客さんがいなかったので、入ってオーナーの方とお話をさせてもらいました。聞けば、開店して18年になると言います。これはすごいことです。おそらく、その当時、東京でさえ、個人レベルでこのような家具を扱っているお店は少なかったと思います。今でも一人でやってらっしゃると聞いて、又々驚きです。

そして、何より強く感じたことは、オリジナルであることの強さでした。これは、仙台でのオリジナル(出店と言う意味で)と共に、展示されている家具が発するオーラのようなものです。決して、似たものやコピーではない本物からでしか感じることの出来ないものだと思います。

家具に限らず、日常的に使用する陶器や漆器などの中には、アート作品として充分に値するものが多くあります。たとえそれが工業製品であってもそうだと思います。何故なら、そこには造形美や機能美以上に、作家と言うか作り手の心や想いが見えて来るからです。

そして、それがオリジナルである強さを一層際立たせ、作品自体の魅力になるのだと思います。

2009年6月6日土曜日

「日々是好日」

今日は朝から雨模様で、一日中降り続くようです。このところ週末にかけて天気が崩れるようで、何か心も沈みがちになりそうですが、これから梅雨に入るというのに、これではいけないと自分に言い聞かせている所です。

ネコのpolkaは相変わらず僕を5時に起こしにかかりますが、最近は無視しているので、途中で諦めて寝るようです。彼は雨が降ろうが、お陽様が差そうがお構いなく、ぼんやりと外を眺めているかと思うと突然部屋を走り回ります。(もっとも一日の内で、1、2時間程度しか行動していないようですが。)そうして大半は、自分の世界に浸り、気ままに過ごしているのです。

そんな姿を見ていると、本当にごくたまにですが、「日々是好日」と言う禅で使われる言葉を思い出すことがあります。これは、決して毎日が大安で良き日であると言う解釈ではないのですが、そんな意味でもいいんじゃないかと思えてしまいます。
本来は、ままならない世の中をどういう気持ちで生きて行けば良い日になるかを問う言葉で、かの宮本武蔵を書いた吉川栄治さんはこう示しています。

晴れた日は晴れを愛し 雨の日は雨を愛す 楽しみあるところに楽しみ 楽しみなきところに楽しむ 

さて、僕自身はまだまだ出来た人間ではありませんので、なかなかそんな心境で毎日を過ごすことは出来ないのですが、明日この雨が上がったら、久しぶりにカメラを携えて、買ったばかりの自転車でゆっくり街中を散歩?でもしようかと思います。

2009年6月5日金曜日

Teach Your Children

写真展のタイトルにもある"Teach Your Children"は、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングが1970年に出したアルバム"Deja Vu"(デジャ・ヴ)に収められた楽曲のタイトルです。当時中学に上がったばかりで仙台にいた僕には、おそらく聞く機会もなかったと思います。そして、その時代の音楽を知ったのも、彼らの影響を受けたイーグルスやレッド・ツェッペリンを聞くようになってからです。

今回の写真展では、常時このアルバムが流れています。(もちろんレコードではなく、新たにデジタル・マスタリングされたCDです。)その時代に聞いたことが無い僕でも、何故か懐かしい感じがします。アコースティックな音とハーモニーが、後のフォーク・ロックやウエストコースと・ロックへ引き継がれ、それをリアルタイムで聞いてきたせいなのかも知れません。

1967-1975は、日本の高度経済成長期末期から終焉の時期です。アメリカも1975年に終了したベトナム戦争でのおびただしい疲弊もあり、また世界的にも1973年のオイルショックにより、思想的にも経済的にも大きく変動した時期と言えます。

展示された作品にもその時代の影が見え隠れしています。そして、音楽も然りです。世代の違いはあっても、観に来られている方はすでにその事に気づいていることでしょう。




2009年6月4日木曜日

芝居通い



ここ5年間、僕はギャラリー通いと並行して、ほぼ毎週の様に芝居を観に行っていました。つまり、昼はギャラリー、夜は芝居と言う感じです。年間の観劇数は50~60回ぐらいだと思います。昨年の暮れから今までは、ギャラリーの立ち上げで観に行っていませんが、テレビで芝居の放映があれば、必ず観ています。

芝居の良いところは、生であり、映画やテレビのように撮り直しがきかない点と劇場での一体感(臨場感)ではないかと思います。劇場といってもその規模は大、小さまざまで、大きいから良いというわけではありませんし、演ずる役者さんも、テレビや映画で活躍する方だけがすばらしいわけではありません。ブランド、企画力があっても、それが即成功につながらないのも面白いところだと思います。
2008年に観た芝居の中で、非常に感銘を受けた作品は、4月に上演された"焼肉ドラゴン"です。もう1年前になると思うととても不思議に思います。それは今でもその時の感情を、たった今見終わったかの様に思い起こせるからです。脚本は在日であり、数々の戯曲の他、映画「月はどっちに出ている」、「血と骨」の脚本でも有名な鄭義信(チョンウィシン)さんです。演ずるのは、日本と韓国の実力派の役者さんですが、多分テレビではあまりお目にかからないので、一般の方にはなじみが無いかもしれません。日本語(しかも大阪弁)と韓国語が飛び交い、韓国語の部分は字幕も出ますが、難解な芝居では決してありません。
一言で言うと、市井に生きる人々のひたむきさと家族の暖かさを、生来人間の持つ生命力とバイタリティーに託し描いた秀作です。特に素晴らしかったのは、母親役を演じた韓国人女優のコ・スヒさんでした。彼女は天才ではないかと思えるほど、自分の年齢よりはるか上であり、しかも子供が4人いる母親の心情を見事なまでに体全体で表現していました。又、カーテンコールで観客が立ち上がり、拍手を送っていたのがとても印象的でした。それは新国立劇場小劇場では今までに見たことが無い光景だったからです。
この公演はテレビでも放映され、昨年の演劇賞のいくつかを受賞しています。もし、再演があれば是非観に行きたい芝居のひとつです。

日本人にも天才的な役者さんはいらっしゃいます。
その話は又、別の機会にしたいと思います。


2009年6月3日水曜日

ギャラリーと言う小さな箱

僕が写真作品を観る為にギャラリーや美術館に足を運ぶようになったのは、今から5年程前です。ですので、写真との関わりはまだ非常に少ないと思います。それでも、ほぼ毎週のように出かけて、完成されたオリジナル作品に触れたことは、貴重な経験でした。時には、日に4、5ヶ所を回ってみたり、結構無茶な見方をしていたと思っています。それゆえ、観る時間も短く、ギャラリーの方とも充分にお話も出来ないし、間違った作品の読み方をしていることもままありました。

今回ギャラリーを開設に当たり、来られるお客様と出来るだけお話がしたいと思っていました。これまで来られたほとんどの方々とは、撮られた時代の話や作品自体の説明や些細なことまで、何がしかの会話がありました。アート作品は直接その良さを感じられるものもありますが、その背景や制作過程等が理解の手助けをしてくれます。それは、写真に限らず、現代アートや古典芸術についても同じ事が言えると思います。

同じ作品を観ても、感じ方は人それぞれです。その時の体調や気分でまるで違う印象を受けることもあります。又、作品の中に作家の生き様が見えることもあります。そしてそれは、その作家のことを知れば知るほど、自然に自分の内で広がりを感じるようにもなります。

企画展として、一人やグループでの作品を展示することは、その作家の意図することをお客様にも感じてもらえるように、言葉やイメージ、展示方法等で翻訳することのようにも思えます。作品と共に翻訳された言葉やイメージが、直に観られるお客様と共有し感じ合えることが出来れば、その瞬間、ギャラリーと言う小さな箱は無限に拡がる宇宙のようにもなれると、僕は思うのです。

2009年6月2日火曜日

ありがとうございましたの一言が。

今日は朝からお日様が顔を出し、気温も上がるかと思いましたがそれほどでもなく、とても過ごしやすかったです。ギャラリーは半地下で陽も差さないので、空調をかけなくても入ると少しひんやりとします。

オープンして2週間が過ぎ、6月に入りました。今まで来廊して下さった方の多くは、40歳以上の方でしたが、その方々は若かった頃の時代やモノクロームへの懐かしさをお話されます。又、企画展のタイトルにもある1967-1975以降に生まれた若い方は、写し撮られた時代の断片に決して古臭さを感じず、逆に新鮮な驚きを受けている様子でした。多くの方は、展示された一枚、一枚をゆっくりとかみしめるように鑑賞し、時には一度見た個所に戻りながら何かを確認するような光景も見られます。

まだ全然知名度が無いので、毎日の来廊者数は少ないですが、来られた皆様のほとんどの方は帰り際に"ありがとうございました"と言ってくれます。これは、僕にとってはとても驚きでした。僕自身、ギャラリー通いを始めてから、そんな言葉をギャラリーの人にかけたことがあったかどうか思い起こしながら、その言葉の意味を毎日考えています。
又、来廊してくださった方が、"ギャラリーと聞くと何か敷居が高くて、入るまですごく緊張しました"とか"私は写真の事は全く知らないのだけれど・・・"と、とても遠慮がちに話されてくるのが印象的でした。その度に僕は出来るだけ優しい言葉を選び(村上春樹さんを見習って)、お客様の感じる印象を上段から壊さないように説明をしてきましたし、これからもそうするつもりです。

"ありがとうございました"の答えを見つける事はもちろんですが、出来る限り敷居も低くして、誰しもが作品と相互に作用しあうことで共鳴や感動を得られるようになれたらいいなと思います。