2009年5月29日金曜日

作品としての写真


僕が写真を作品として意識したのは、オランダの写真家であるエド・ヴァン・デル・エルスケンの個展"サン・ジェルマン・デ・プレの恋"だったと記憶しています。1986年に東京のプランタン銀座で開催されました。それまで、ほとんどの方がそう思うように、僕自身写真を記録としてしか見てきませんでしたが、この写真展はこれまでの写真に対する概念を変えるものでした。作品自体は、1950年代当時のパリに過ごす若者達をドラマチックに写し撮ったもので、プリントもモノクロームの基調である黒がとても印象的に出ていたことを覚えています。
今でも、時々その図録を手に取る事がありますが、誰しもが経験した若かった時代の生の輝きや切なさが胸に迫ります。そしてそれは、いつの時代でも、誰にでも感動を与えることが出来る類のもので、絵画やその他の手法では成し得るなかったのではないかとも思います。作家の持つ眼をカメラの眼に置き換え、プリントととして表現する写真だからこそ出来たのです。
僕が観に行った時に、偶然、エルスケン自身が会場に来ていました。僕は図録にサインと握手をして貰いましたが、その時の、手の柔らかさといたずらっぽい笑顔が忘れられません。

晩年、癌に侵され、弱っていく姿を自身でビデオで収めたドキュメンタリー番組が、2度目の出会いでした。とても悲しい現実でしたが、優しい目元は変わっていないように、僕には見えました。

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